小児科医として働くD理事長は、長年地域で子供たちの成長を見守ってこられた。でも、赤ん坊から診療してきた子たちも成人となり、巣立っていく姿になんだか物悲しい気持ちにもなったそうだ。
そんなD理事長はここ最近、頭を悩ませることが増えたとのこと。
それは、大学時代からの友人である歯科医のF理事長が60歳で引退してしまったことに端を発する。
F理事長は、同世代の医師と比べてアーリーリタイアではあったが、しっかりと退職金を受け取り、退職後に長年の夢であった田舎で農業をしながら悠々自適な生活をすると聞いた。
そんな話を耳にして、なんだかうらやましくも思えたそうである。
「第2の人生をどう過ごそうか…。」D理事長は自分自身の退職後のことは何も考えていなかった。
ぼんやりとあと10年ぐらい働いたら辞めようと決めていたが、F理事長のように退職金を受け取って、悠々と過ごすなんてこれっぽっちも想像しなかったそうだ。
幸いなことに、息子が後継ぎとして7年前に医院に戻ってきてくれており、そろそろここを譲っても良いかなとも考えていた。そのような時にご相談をいただき、弊社コンサルタントは以下の話をした。
法人の利益を法人・個人のどちらに残すか選ぶことができる
医療法人から支給される理事長の報酬は、個人事業主の所得税同様、高い税率が課せられる。
給与所得控除を受けることは出来るが、所得税に住民税を含めると課税所得1,800万円を超えると50%、4,000万円を超えると55%の税率が課せられ、理事長の手元にはなかなか現金が残らない。
そのため医療法人の利益を法人と個人のどちらに残せばいいのかを考えた時、税率だけを見れば、医療法人の利益はそのまま法人に残した方が多くお金が残せる。しかし、単純に法人の利益を内部留保し続けると出資持分評価が高騰し、息子へ持分を承継する時や相続で多大なコストがかかってしまい、逆に法人の存続を脅かしかねない要因になる。そこで対策を兼ねて理事長の報酬を高額にすると、高い税率が課せられてしまう。
また、役員賞与には法人税、所得税、住民税が課せられるので、法人の利益を個人に移す方法としてはこちらも得策ではない。そこでポイントになるのが、理事長自身への退職金の支給。
退職金は、税制面で優遇されており、税負担が給与で受け取るより軽いのが特徴。
さて、このような話を続けると、D理事長は自分の準備不足に後悔された。
退職金の2つの性質
続けて退職金について、このように話を続けた。
「理事長の退職金には、2つの性質がある。
1つ目は「功労金」、2つ目は「給与の後払い」という性質だ。
この「功労金」「給与の後払い」という2つの意味合いを持つ退職金。
理事長は十分な金額で受け取る権利と義務を所持している。これまでご苦労されてきた理事長とご家族が、勇退後も豊かな暮らしをするためや医業承継や相続を円滑に進めるためにも、欠かすことのできない重要な資金源となるのである。
① 功労金
長年、医療法人を発展させて地域医療に貢献してきた理事長に対する功労・慰労の対価という意味合いがある。
② 給料の後払い
医療法人の理事長は、個人事業の診療所時代、また法人化した医療法人の経営を軌道に乗せるまでの時代は資金繰りが苦しい傾向にある。そのため、自身の理事報酬を低く抑えていた、という話も珍しくない。
この給与を低く抑えていた分を、あとから理事報酬を増額することで回収するのではなく、「給与の後払い」として退職金で受け取るという意味合いだ。
税制面で優遇されている退職金の金額を、理事長は自身で決めることができる。
理事報酬・退職金の金額設定が出来るのは、理事長ならではの特権といえよう。
もちろん、他の理事とのバランス等を考えて金額を考えなければいけないといった個別の事情を考慮する必要はある。が、理事報酬と退職金をそれぞれの税率を考慮した上で、適正金額に設定し、両方のバランスを取ることにより法人・個人の税コストを最小限に抑えることが可能だ。そうすることで、法人の支出総額を変えず、理事長の可処分所得を最大化させることを実現できるのである。
このようにお話しすると、今からでも遅くないとD理事長は早速対策に乗り出したのだった。
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