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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2018/05/16号 ━━━
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■□■経営に役立つ書籍から■□■
『相続の6つの物語』本郷 尚 著
日本経済新聞出版社刊(全国書店で販売中)より転載しています。
https://www.amazon.jp/dp/B01KA008TC/
※弊社提携先、株式会社タクトコンサルティング会長で税理士の
本郷 尚先生のご厚意により、著作を掲載いたします。
長い物語ですので、数回に分けてお届けします。
保存しながらお読みくださいますと幸いです。
前回の配信分は、こちらをご確認ください。
その5
https://www.humannetwork.jp/mailmagazine/2018/04/286.html
「最後の仕事」その6
琴音の決意が固く、子供たちも同意していることを確認すると、
弁護士や不動産仲介会社、司法書士、測量士、公認会計士、社会保険労務士、
不動産鑑定士などを集めてプロジェクトチームを組み、
不動産の整理とM&Aに取りかかった。
会社の整理の方法としては、単純整理方式とM&A方式がある。
前者は不動産等をすべて売却し、
法人税等を納付した上で会社を清算し、解散する方法だ。
多額の法人税と所得税がかかり、株主の手取りは少なくなる。
後者のM&Aは会社ごと売却する方法である。
不動産の含み益に対する法人税等を差し引いて、会社を売却する。
株主にとっては株の売却となり、
売却益のざっと20%の分離課税がかかるが、
単純整理方式と比べると株主の手取り額は多い。
一方で、買手が必要としない不動産や従業員まで
丸ごと売却することになるため、
買手にとっては負担やリスクが大きい。
そこで城所は、現実的な手段として二段階方式を提案した。
まず、買手にとって魅力のある斉藤ビルを残し、
その他の不動産を売却する。
その売却代金を役員と従業員の退職金に充てる。
役員退職金の計上により、欠損金が計上された。
会社の中身を斉藤ビルだけにして、M&Aで売却するのだ。
専門家によるプロジェクトチームが、
M&Aで売却する手続きと税金の処理に一気に動いた。
斉藤ビルの時価は10億円以上。
役員退職金と斉藤ビルの含み益の税金の計算をし、
M&Aの株価が決定された。
最終的に、株主家族には退職金と株の売却代金で
合計10億円近くが渡った。
ちなみに、株の売却益には20%の分離課税、
退職金も概ね22%位の分離課税がかかる。
この10億円は、母の琴音と子供たち3家族で分けた。
長男の家族はすでに退職金を受取っていたので、
株の売却代金だけだったが、
長男の嫁は「こんなにたくさんいただけるなんて・・・」
と驚いていた。
プロジェクトチームの奮闘で、
約1年でこの大仕事をやり遂げた。
当初の試算より経費等がかかり、
皆の手取り額は多少減ったが、誰からも文句は出なかった。
琴音はもちろんだが、
これまで家業から距離をおいてきた次男、
三男もこの大仕事に真剣に取り組んでくれた。
怒涛のような1年が過ぎ、最終段階を迎えた。
不動産の取引が目の前で一件一件成立し、
最後の不動産の引き渡しでは緊張感が最高潮に達した。
次の段階のM&Aでは、プロ同士の厳しいやりとりが繰り返された。
取引の現場に立ち会った息子たちは、
息詰まるような展開を手に汗を握る思いで見守った。
M&Aの調印を終えた後、次男の憲司と弟の武は顔を見合わせて言った。
「心臓のバイパス手術より緊張したよ」
「まるで映画を観ているみたいだったなあ」
息子たちはすべてが終わってほっとしていたが、
琴音にはもうひとつ大切な仕事が残っていた。
長年一緒に働いてくれた5人の社員の処遇だ。
社員には規定の退職金に、
自分の退職金からひとり1000万円づつ加算することにした。
「そこまでやることはないでしょう」
驚く息子たちに琴音は凛として言った。
続く
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著者 本郷 尚(ほんごう たかし)氏
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税理士。株式会社タクトコンサルティング会長。
不動産活用、相続、贈与、譲渡など資産税に特化した
コンサルティングを展開。
また、著書やセミナー等のあらゆる機会を通じて、
相続対策の新しい考え方の普及にも力を入れている。
昭和48年税理士登録。
昭和50年本郷会計事務所開業。
昭和58年株式会社タクトコンサルティング設立。
平成15年税理士法人タクトコンサルティング設立。
平成24年株式会社タクトコンサルティング会長に就任。
「こころの相続 幸せをつかむ45話」、
「改訂新版 がんばれ大家さん!」、
「不動産M&A入門」他、著書多数。
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