2020年03月26日 ※税法上の取扱いについては、左の日付時の税制によるものです。
2015年1月に相続大増税が実施されました。
最高税率が引き上げられ、資産家にはより重い増税となっています。
この増税を味方につけて、さまざまな提案を持ち込んでくる
会計事務所や金融機関が増えているようです。
オーナー経営者の場合、資産の多くが自社株であることが多く、
それを子供たちにどう引き継ぐかは難しい問題です。
経営が順調であるほど、自社株の評価は高くなり、相続税も高額になります。
いかに納税資金を確保しておくかは大きな課題です。
また、複数の子どもがいる場合に、自社株を均等に相続させてしまえば、
将来、経営権争いが起こってしまうかもしれません。
後継者にいかに株式を集中させるかも重要です。
あるとき、80年続く食料品輸入会社B社の番頭を長年務めてきた
役員のEさん(68歳)から相談を受けたことがあります。
B社は中堅ながら、業界ではパイオニア的な会社として知られています。
社長は今年で70歳になりますが、
現役で体力のもつ限りは社長業を続けたいと言っています。
社長には3人の息子がいて、現在は役員として経営に携わっています。
社長は長男を後継者と決めているようですが、
事業承継の時期は明確にはしていません。
また、社内には次男や三男を慕う社員も多く、
万一社長が突然亡くなるようなことがあれば、
後継ぎ問題でひと悶着あるのではないかと、
番頭であるEさんは心配しているのです。
Eさんは「今のうちにできる対策はないでしょうか」と言いました。
そんなEさんに対して、
私は次の二つのことを社長に提案するようアドバイスしました。
一つは、社長が3人の息子と個別に話をする機会を設けてもらい、
長男を後継者とすることと、事業承継の時期を明確に伝えてもらうことです。
また、次男、三男に対しては、今後会社の経営で
どのような役割を期待しているか社長の想いを伝えてもらいます。
もう一つは、長男が後継者となっても、それ以外の2人と不公平感が出ないよう、社
長が亡くなったとき、3人が同額の現金を受け取れるように
保険で準備をしておくことです。
保険に加入しておくことで後継者である長男は
保険金を相続税の納税資金として活用できますし、
後継者以外の2人に対しては、将来的に会社を離れることになったとしても
困らないだけの蓄えを残してあげることができます。
それから3年後、社長は会長になり、長男が後継者として社長業を引き継ぎました。
B社とはその後もお付き合いさせていただいていますが、
新社長からは、後日こんな話を聞きました。
「3年前、あのタイミングで会長の口から直接、
今後の経営について話をしてもらえて本当によかったです。
同じことを次男と三男に伝えるとしても、私が話すのと
創業者である会長が直接話すのでは印象がまったく違っていたはずですから...」
B社の場合には後継者である長男に自社株を集中させることができましたので、
スムーズに事業承継を行うことができました。
しかし、自社株が分散してしまったために経営が混乱してしまうこともあります。
複数いる兄弟のうち、誰が後継者になるか決まっていたとしても、
経営者が遺言を用意することができずに亡くなってしまえば、
多くの場合は他の兄弟も遺産相続の権利を主張します。
遺産分割協議で調整できなければ、自社株は複数人に分散してしまうのです。
そうすると生まれるのが経営権の問題です。
「船頭多くして船山に登る」という言葉が示す通り、
中小企業にとっては、
一人の経営者による意思決定が阻害されることは致命傷になりえます。
成功する見込みのない新規事業の推進、
経営の素人の感情論による人事への口出し...
最悪、従業員を巻き込んで派閥をつくり、
社内が分断されるようになっては目も当てられません。
企業経営を取り巻く環境がより厳しさを増す昨今、
従業員が一枚岩でなければ必ず業績に悪影響を及ぼします。
そうなれば待っているのは倒産や、
業界再編の波に巻き込まれての会社の身売りなど、悲劇的な結末です。
事業承継対策において、
承継後の経営体制を計画的にコントロールすることは欠かせません。
しかし相続は一生に一度。経験のないことへの対策を事前に検討するのも大変です。
ましてや大増税が実施された今、自社株の相続はさらに難しくなっています。
お気軽にお問い合わせできるよう複数の窓口を用意しております。